大統領選もそろそろ終盤に差し掛かってきたところですが、共和党の候補者指名を受けたトランプ氏もここに来てやや失速気味です。
一方のクリントン女史も、アメリカ初の女性大統領が間近に見えて勢いづいているものの、以前問題視された「メール問題」を蒸し返されたり、オバマ大統領が推進してきたTPPへの方向性を問われたり(クリントンはTPP反対の立場)と、終盤戦をすんなりと勝ち進められるかどうか不透明です。
不動産王のトランプ氏は「アメリカ第一主義」を掲げてアメリカの中間層~貧困層の圧倒的な支持を受けているわけですが、その言動が過激なためかメディアと芸能人にはとことん嫌われています。
一般的にアメリカの芸能人はリベラルな人が多いのでそれは理解出来るのですが、アメリカのメディアは右も左もあるのに双方から嫌われているのは、やはりその過激な政治姿勢が保守派から見ても現実的ではないと捉えられているからでしょう。
それと、トランプはアメリカの中間層以下に響く政策を前面に打ち出しているのもその一因です。
例えば、なんでアメリカの若者が遠く離れた中東で命を懸けなければならないんだ?とか極東の日本をなぜ守らなければならないんだ?とか、基本的にはアメリカ第一主義なので「アメリカが良ければ他はどうでもいい」というのがトランプの主張です。
アメリカは世界でもっとも豊かな国のはずなのに俺達の給料は一向に上がらない、なのになんで俺たちの払う税金で外国の揉め事に首突っ込まなければならないんだ?という理屈が彼ら中間層のハートにぶっ刺さるわけです。
しかしエリート層にしてみれば、自分のことばかり良くて国外との協調を顧みない主張は国際的に孤立するので受け入れがたいわけです。メディアは基本的にエリート層ですからね。
そういうわけで、マスメディアというフィルタを通じて描かれるトランプがあまり好意的に描かれていないという理由はそのあたりにあります。
トランプやブッシュは巷で言われるほどバカじゃない
日本のメディアは基本的にアメリカのメディアから発信される情報を垂れ流しているに過ぎないので、日本でのトランプ像は「傲慢で成り上がり、人種差別主義者の白人」というイメージが定着しています。
しかし、単なる泡沫候補のリップサービスだけでここまで選挙戦を生き残ってきたと考えるのは早合点です。
まず第一に、トランプは国民に顔と名前が売れていること。
以前彼は「アプレンティス(見習い)」という番組のホストをやっていました。
内容は、番組参加者がトランプが出す数々のビジネス課題をクリアして、最終的に残った者がトランプに採用される、というリアリティ番組で、採用されれば初年度の給料が25万ドル(2,500万円!)。まさにその過程が「見習い」なわけです。
課題自体をクリアする過程やチーム内の人間関係、嫉妬、足の引っ張り合いなど、よくTVでやるなぁと思うほど下品ですが、こういったアメリカンドリーム的な番組は中間層にウケるんですね。
この中でトランプが参加者に脱落を告げる”You are fired!”(君はクビだ!)というセリフも彼の代名詞になったぐらいです。
…という背景を知らないと、なぜあんな差別主義者が支持されているのかわからないと思います。
この番組で見るトランプはタレント感たっぷりで演習過剰ではあるものの、不動産王と呼ばれるだけあって考え方や判断は冷静なビジネスマンそのものです。
まるっきりのバカであればここまで支持を伸ばせなかったでしょう。
トランプの言うことは中間層や貧困層の溜飲を下げてくれますが、一方では「本当に実現出来るのか?」と思ってしまうことは否めません。
しかしトランプはニューヨークで不動産開発で成功した人間ですから、「こいつなら富裕層にお灸を据えて、我々の生活をなんとかしてくれるかも」と中間層は期待を抱くのです。
当然トランプも富裕層なので、同じ穴のムジナたちに大鉈を振るえるのか?と思うかもしれません。
しかしトランプは不動産開発という”実業”で財を成したためか、金を動かすだけで利益を得る金融などは快く思っていないフシがあります。
つまり製造業や建設業などの実業よりも、金融など額に汗せず莫大な利益を上げる分野への課税を強化するだろうといわれています。だからウォールストリートやメディア(どちらもエリート層)が猛反発するわけです。
日本のマスメディアはトランプが大統領になったら日米安保が崩壊する、と言った視点でしか報道していませんが、なぜトランプが共和党指名で生き残ったのか?なぜ中間層にあれだけ支持されているのか?をまともに分析・報道しているメディアはありません。
そりゃまともに報道したら、ブーメランが自分たちに返ってきちゃいますからね。
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