エンジニアにスーツ着用を求める会社


日本のサラリーマンにとって、スーツって制服みたいな位置付けですよね。

僕は以前から「どんなシチュエーションでもスーツを着る」という雰囲気に疑問を持っていました。

いや別に営業現場やパーティに普段着で行けって話じゃなくて、必要じゃないシーンでスーツ着用を求める会社が未だに多いって話です。

suitsman

例を挙げると、エンジニアにスーツ着用を求める会社とか。

エンジニアって普段は会社で開発・設計作業に没頭しますよね。朝出勤すればほとんど会社の中で一日を過ごします。デスクで設計作業に没頭、会議があっても社内関係者だし、試作や実験とかする部署であれば、普通は作業着や白衣が支給されます。

そう、エンジニア職でスーツを着る合理的な理由が全く見当たらないのです。

僕が以前勤めていた電機メーカでは

昭和の終わりごろに、関東にある某通信機メーカの子会社にエンジニア職として採用された僕は、入社式から新人研修までスーツで出社しました。今思えば、特に「スーツ着用のこと」と指定はありませんでしたが、暗黙の了解でスーツで出社していました。もっとも、この期間に私服で出社する強者はいませんでしたが。

その後、ソフトウェアを開発する配属に配属された訳ですが、そのフロアを見てびっくりしました。フロアには100人程度いましたが全員スーツを着ているのです。

総務部や人事部などの管理系のフロアかと一瞬思いましたが、机の上を見ると設計資料らしきものが無造作に広げられていたので、そこは間違いなく僕が配属される開発部だったのです。

僕はそれまで、ソフトウェア開発というものはアップルやマイクロソフトなどに代表する新進気鋭で無駄を排した、それでいて西海岸の自由な香りが漂う雰囲気の中で開発するものとばかり思っていました。

当時のソフトウェア産業のステレオタイプ的なイメージは、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツがTシャツとジーンズとサンダルで世界中の人が使いたくなる製品を生み出している、でしたからね。

配属されて程なく、開発チームの工程が遅れ気味で休日出勤が常態化してきます。更に、日曜日に出勤→そのまま徹夜→月曜も引き続き作業、といったことが数週間続きます。休日は普段着で出勤していますから、徹夜した月曜はそのままの格好です。

さすがに工程が逼迫して必死に頑張っている(そもそも工程が逼迫するのはPJ管理がおかしいのだがそれはさておき)ところに服装のことで注意されることはありませんでしたが、その後なぜか普段着で出勤していると「スーツを着なさい」と注意されるのです。外出も来客の予定も無いのに。

僕もアホじゃないですから、不意の来客や外出に備えて会社ロッカーにスーツ、Yシャツ、革靴一式を用意した上での普段着出勤です。しかも就業規則にはスーツ着用とは書いてありません。

僕は不意の来客や外出にも対応出来る準備が出来ていることも含めて説明したのですが、上司は「会社とはスーツで仕事するところだ」の一点張りで「なぜスーツ着用が必須なのか?」について合理的な説明はありません。

エンジニアのスーツ着用に合理的な理由はあるの?

結局、上司は前例主義に倣っていただけでした。「自分たちの先輩もいままでずっと背広で仕事していたから」「自分の部下だけが目立ったことをすると自分の評価が下がる」といった感じです。

僕は「何がなんでもスーツを着たくない!」と思っている訳ではありません。

むしろ、シャツやネクタイをどう合わせようか、とかパンツの丈と革靴の合わせ方にこだわったりとか、スーツを小奇麗におしゃれするのは好きなほうです。それが故に、なんで一日中会社にいるのに、しかも実験室でデバッグするのに小奇麗なかっこせにゃいかんの?と思わずにはいられなかったのです。

ホリエモンが脚光を浴びていたころ、「スーツは生産性が下がる」といつもTシャツでメディアの前に現れていました。僕はようやく当たり前のことをストレートに言う人が出てきたなぁ、と感心していましたが、当時のメディアや長老たちはずいぶん批判的でした。多分、いままで自分たちが信じてやってきたことを根底から否定されたような気がしたのでしょう。極めて老人的な反応です。

Q.でも、不意な来客や外出に普段着じゃマズくないですか?

会社にスーツ、Yシャツ、革靴一式置いておけば事足ります。

というか、今時開発会社、開発部門に訪問してくる人が、普段着で対応したからと言って「失礼だ!」と怒る人はまずいません。

また、ユーザが来客するときはアポイントメントとるのが普通ですから事前に来社日時がわかっています。そのときはスーツで出社すればよいでしょうし、不意に来社されたときは普段着で対応しても失礼にあたらないと思いますよ。普通、不意に来社するお客さんは「近くまで来たので寄ってみた」とか「ついでにxxの件で」という理由ですから、かなり親しい間柄でしょう。そんな関係の人が不意に訪問してこちらが普段着だからと言って「失礼だ!」と思うことは無いでしょう。

Q.ユーザ企業が会社見学に来たときに普段着では失礼では?

それは感覚がズレています。

僕がユーザ企業の立場でメーカや開発会社の見学に行ったとして、「ここが弊社開発部門のフロアです」と紹介されたときにスーツ着た人間がズラーっと働いていたら「この会社に頼んで大丈夫かなぁ….」と不安に駆られます。

そこが商社とか証券会社だったらさほど違和感はありませんが、メーカの開発部門といえば常に「新しいこと」を生み出し続けているところです。逆にそれが継続できないと他社との競争に生き残れません。

例えば、ゲーム会社の開発フロアを見学して、みんなスーツ着て開発してたらゾっとしませんか?

Q.ユーザ企業のシステム開発に常駐しています。先方のエンジニアは普段着ですが、うちの上司からは「先方はお客様なのだからスーツ着用」と言われています(涙)

ご愁傷様。あなたの上司は事なかれ主義のようです。

「とりあえず先方がどうあれ、スーツ着て行ってれば先方に服装で文句言われることは無いだろう」という考えでしょう。そこには派遣しているあなた達エンジニアのことは一切考慮されていません。

もし僕が派遣元の責任者だったら、「特に差し支えなければ御社エンジニアと同様に普段着での作業を許していただきたいのですが」と先方と交渉しますがね。もちろん普段着OKでもジーンズはNGとか短パンTシャツNGとかドレスコードは先方の基準に合わせますが。

この程度の交渉で「この会社面倒臭ぇなぁ」と思われることはありませんし、仮にそう思う会社だとしたら、自社の社員は普段着OKなのに派遣にはスーツ着用と服装を差別する会社ですから、今後のお付き合いを考えるべきでしょう。

Q.製品の設置・設定やトラブル対応する、いわゆる”サポートエンジニア”ですが会社からスーツ着用と言われています。スーツ着なくていいですか?

これはある意味仕方が無いですね。

製品の設置とか現地調整ということは、小規模事務所や一般の住宅にも訪問する機会が多いと思います。そんなところに、いくら社員章とIDカードをぶら下げていたとしても普段着では怪しさ満点です。訪問された側もその人を信じていいものかどうか判断しづらいものがあります。

この場合はスーツを着用することで信頼度が増しますから、会社業務を遂行する点で言えば(スーツを着ることには)合理性があります。

ただし、配線作業などで狭いところにもぐったりする作業が多いようであれば、会社側と掛け合ってユニフォーム的な作業着を作ってもらうとか、無理であれば普通の作業着着用で従事出来るよう交渉すべきでしょう。別にスーツが好きならそのままでもいいですが。

Q.でも、スーツからカジュアルにしただけでイノベーションが起こるとも思えないです

そりゃそうでしょう。それは「ネクタイ締めて仕事が出来るようになるなら何本でも巻きますよ」というのとあまり変わりません。

でも少なくともカジュアルにすれば「スーツ着用で仕事」という固定観念からは解き放たれる訳で、職場に自由なマインドを醸成するきっかけの一つにはなるのではないでしょうか。

少なくとも「エンジニア職がスーツを着ないと出来ない」ということはなく、むしろ生産性が下がるマイナス面の方が大きいです。

合理的に考えれば、開発・設計業務にスーツは必要ありませんし、必要ないものを強要する意味がわかりません。

小奇麗な普段着より汚いスーツのほうが良い?

僕が勤めていた電機メーカの話に戻ります。

開発職でスーツ着用、という合理的な理由の無い暗黙のルールに縛られた組織は、時にバカらしい価値観を生み出します。

身だしなみに気遣う人は体型にあったスーツを小奇麗に着こなしますが、外見に気を使わない人は、襟が黄ばんで皺だらけのYシャツにシミが付いたヨレヨレのネクタイ、いつクリーニングしたのかわからないクタクタのスーツにセンスのかけらもないスリッポンの靴だったりします。(あなたの周りにもいませんか?)

仮に、開発職にスーツ着用を強要する理由が「来客者に失礼にならない」とするならば、このような不潔なスーツ姿は逆に失礼にあたりませんか?むしろキレイなTシャツとジーンズを着ているほうが清潔感があって好印象だと思うのは僕だけでしょうか?

しかし「暗黙のルール」に縛られた組織では、小奇麗な普段着の人よりも不潔なスーツ姿の人のほうが評価されるのです。理由は後者のほうが(暗黙の)ルールを守っているから。

「スーツだったらなんでもよい」「スーツ着ていればなんでもよい」という価値観は、もはや思考を停止しているのと同じです。