人間年をとると誰しもが耳が遠くなる。
僕の父も70歳を過ぎたあたりから耳が遠くなり始めて、今ではかなり大きな声を出さないと会話できないぐらいに困難になっている。電話だと音源が耳のそばにあるのでまだ会話が楽だけど。
しかし加齢によって耳が遠くなる、いわゆる加齢性難聴(老人性難聴)の発症は人によって差があるのはなぜだろうか?
早い人は60代から耳が遠くなり始める人もいるし、遅い人では80歳でも常人と変わらない聴力を維持している人もいる。
この違いはどこからくるのだろうか?
耳は消耗品
以前までは、加齢性難聴は加齢にしたがってなるものだと漠然と思っていたけど、調べてみると実は過大な音量によって聴覚神経が失われる音響外傷もその遠因の一つとなっているらしい。
人間の耳は、内耳にある蝸牛というカタツムリの殻のような器官があって、その中にある有毛細胞が音の振動をキャッチして脳に送っているが、大音量を受けるとこの有毛細胞がダメージを受けてしまうらしい。
耳に「キーン」という残響音が残るのはこの有毛細胞がダメージを受けた状態。
ライブ終了後に耳がこんな感じになった人も少なくないだろう。
この有毛細胞も若い時はある程度回復するが、基本的には加齢に伴い有毛細胞は徐々に減少していく。決して増えることは無い。
モスキート音
「モスキート音」って聞いたことないだろうか?
蚊の羽の音のことを指すのだが、この音は16,000Hz~20,000Hzで10代~20代前半の若者にしか聴こえない。オジサンオバサンには聴こえない音だ。
なぜ壮年期の人に聴こえないかというと、加齢によって高音域をキャッチする有毛細胞が徐々に減少していくから。
実際、80代になると10,000Hz以上は聴こえなくなるそうで、普通に生活していても高音域から徐々に聴力が失われていく。
大音量が聴力を消耗し、難聴へ加速させる
で、ここからが本題。
ライブハウスやコンサートなどで好きなアーティストの音楽を大音量で聞くのは、迫力のある臨場感とライブの高揚感でなんとも言えない気分になる。
僕もハードロックやヘビーメタルが好きなのでその気持ちはよくわかる。
しかしライブ終了後に耳に「キーン」と残る残響感は、確実にあなたの有毛細胞にダメージを与えている。ライブじゃなくても、騒音が激しい工事現場や、大音量で聞くイヤホンなども同じだ。
普通に生活していても有毛細胞は徐々に失われていくのに、さらに自ら耳に大音量を加えて有毛細胞にダメージを与えるのは、難聴になることを加速させていることに等しい。
冒頭で「耳は消耗品」と言ったのはこういった理由から。
長年の騒音の積み重ねが加齢性難聴(老人性難聴)の原因になる、ということを端的に表す例が「アフリカの先住民族に加齢性難聴がほとんど見られない」ということ。
別にアフリカに限った話ではないが、都市部の騒音から離れて生活している人達は老人になってもほとんど聴力の低下が見られない。
このことからも「耳は消耗品」ということがよくわかる。
今のうちにやれること
大音量の音楽視聴をやめる
よく電車の中でイヤホンから音漏れするぐらいの大音量で音楽を聴いている人がいるが、あの音量では確実に有毛細胞にダメージを与えている。
特定の周波数帯域の聴覚が減少しても、脳がもう片耳から聞こえる音で補正するので聴覚の減少に気づきづらいが、感度が落ちた周波数帯域が増えてくると脳で補正できなくなり、そこで初めて音響外傷や騒音性難聴に気付くケースもある。
そうなる前に、周囲の音に気づかないぐらいの大音量で音楽を聴くのは止めるべきだ。
騒音の多い場所に行くときは耳栓を
丸い銀玉を弾く遊技場やメダルを投入して遊ぶスロットマシンなどがある遊技場の騒音レベルは90~100dBと言われており、これは騒音だと「我慢できないレベル」。
90~100dBってそんなに差が無いと思われるかもしれないが、デシベル(dB)は対数なので6dB差があれば2倍違う。90dBと96dBでは音量差が2倍あるということ。
とにかく遊技場に行くなら耳栓を忘れずに。
コンサート用耳栓を使う
実は僕は10年ぐらい前に突発性難聴になったことがある。
幸い、早めに受診したことと薬(ステロイド剤)が効いたことでほぼ元通りの聴力まで回復したのだが、それ以来、騒音が多い場所に行くときは耳栓が欠かせなくなった。
突発性難聴の原因はストレスが原因だとかウィルス性だとかいろいろと言われているが、まだはっきりとよくわかっていない。
ただそのときは耳についていろいろと調べるうちに「耳は消耗品」ということがわかって、大音量による聴覚神経のダメージを避けることは長期的に耳のケアにつながることを知った。
それ以来、バッグには100円ショップで買った耳栓を常備している。
ここ10年ぐらいコンサートに足を運んでいなかったが、先日久しぶりにLOUDNESSのコンサートにいった。
LOUDNESSと言えば爆音が売りのメタルバンド(それでもかつてよりはボリュームを下げたらしいが)で、一番後席でも耳へのダメージは必至なので、今回はコンサート用のイヤープラグ(耳栓)を購入した。
ただの耳栓だと単に音を遮蔽するのでなんのためのライブ鑑賞だよ?って話なので、音を通しつつ全体の音量を下げるコンサート用のイヤープラグを探してみた。
コンサート用の耳栓はいろいろ種類があるけど、このThunder Plugsという商品は価格的にも1000円ちょっとで買える。
この黄色の部分を外側にして耳に挿入する。黄色の部分に穴が空いてあり、外部の音を通しつつも全体の音量を下げる仕組みだ。
専用の収納ケースも付いているので、持ち運びも便利。
実際にLOUDNESSのライブで使ってみると、耳栓にありがちなくぐもった音にはならず、適度に音は聞こえつつも全体の音量を抑えている感じがしてとてもいい。
しかも100均で売っているウレタン製の耳栓は耳に入れているのがまるわかりだけど、この耳栓は耳孔から大きくはみ出ないので、見た目もスマートである。
ただ、耳からの音量を抑えているので自分の声はストレートに聴こえてくる。なんか会場が静かで自分の声だけが響いているんじゃないかと少し恥ずかしい感じがするが、実際の会場は爆音なので自分の声などかき消されている。
つまりそのぐらい会場音が抑えられているのだが、かと言って迫力が無いかと言えばそうではなく、ボーカルの息遣いやベース音なども粒が揃ってハッキリ聞こえる。
ライブ終了後、耳への残響音がスゴかったのだろう、隣の人達が大声で会話していたが、僕は耳栓を外すと通常と変わらず聴覚へのダメージは全く無かった。
1000円ちょっとで耳へのダメージを防ぎつつライブを楽しめるのだから、全ての音楽ファンにオススメしたい商品である。
まとめ
・イヤホンの大音量は今すぐ辞めよう
・コンサート、ライブには専用の耳栓を使おう
正直、コンサートに行くのに耳栓?と思わなくも無かったけど、聴覚は可逆性ではない(一度失ったら再生できない)ことを考えれば、一時の快楽のために将来の難聴のリスクを上げることは賢い選択とは言えない。
今回使用して思ったのは、コンサートを楽しむことと耳を保護することはトレードオフの関係ではなく両立できるということ。
騒音性難聴や加齢性難聴の発症を少しでも遅らせるためには、こういったコンサート用イヤープラグを使うことをオススメしたい。
ちなみにアーティストの人達は年間何十本もツアーをやっていて耳は大丈夫なのだろうか?と心配になるが、彼らはイヤーモニターといって耳孔にピッタリとフィットするオーダーメイドのモニターを使っているので、アンプの爆音が耳に直接入らない。
観客のレスポンスが直接聞こえない(※イヤーモニターを通じて聴こえる)のが難点であるが、耳を保護する点で言えばある意味仕方が無いだろう。彼らが聴力を落として引退を余儀なくされるよりは、イヤモニで耳を保護しながらいつまでも良質な音楽を私たちに届けて欲しいと願わずにはいられない。
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